一汁のご縁


蓋を開けるとだしのかおり
手先からぬくもり
ほのかな湯気と
具材の色合いは
視線を奪う
五感が自然に口へと誘う
心におもてなしの
慈しみが染み入る
おいしい
ほんとうにおいしい
両手にある椀をまたながめる
誰が口にするかはわからないけど
慈しみの心を持って
携わった方々が
一汁のご縁をくださった

 

すべての具材がこの椀によそわれるまでは
大自然より賜ったいのちと恵み
だしとなっている昆布や鰹 具には鰺のつみれ
そこに添えられた三葉と柚
お水 塩 隠し味 調理した道具 ガスなどのエネルギー
顔も知らない名前さえ知るよしもない

 

漁師さん 農家さん 市場の方や仲買さん 運送屋さん
小売りのお店 そして買い出しされた方
そして 今料理してくださった方
それぞれに欠かすことの出来ないご縁だ

 

お釈迦様は『スッタニパータ』という原始仏典に
『全世界に対し、限りない慈しみの心を抱き
誰に対しても、恨むことなく
敵意を持たず、慈しむべし』
と 呼びかけられている
互いに恨む心や敵意を捨てて
ともに慈しみの心で向き合いなさいと

 

今もやむことない戦争の中 悲しい現実を突きつけられている
隣国同士 難しい問題や歴史 文化宗教など
隔たることはたくさんあるが 恨みを深掘りする前に
隣国の慈しみあふれる一汁のお椀を味わって見てはいかがかと
元々個々には憎みや恨みもなかったのでは
個々はみなそれぞれ違う生き方考え方がある
誰にもかわることの出来ない 尊いいのちといえる
互いに認め合っていけるか 尊び合っていけるか

 

阿弥陀如来の「すべての生きとし生けるものを救う」というお心は
差別区別なく誰にでも届いてくださっている慈しみそのもの
言い換えれば親鸞聖人の「四海のうちみな兄弟」ということ
自分の気に入らない人びとを差別し排除する必要もない

 

雪降る能登地震の被災地
名も知らない方々から炊き出されたとん汁
涙しながら「おいしいね~ 。本当においしい。ありがとうございます。」
「また来ますよ~ 。またあいましょうね~ 。」
笑顔があふれる

 

いつでも慈しみの中にある私
一汁の椀より 人の温もりといのちに出会えた

 

令和6年1月1日 眞願寺 元旦会 住職法話 抜粋